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2011年4月25日 (月)

「消される被曝者(2)『チェルノブイリ事故の死者4000人』の謎とIAEA・WHOの調査手法」ヤブロコフ他

(本編は「数字から消される被曝者たち(1)広島から学ぶ」の続きです。長いので2つに分けました。前書きにつきましては、まず(1)をご覧ください。)

http://franceneko.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/1-a0d9.html 

2.チェルノブイリから学ぶ

(以下、『チェルノブイリ―大惨事が環境と人々にもたらしたもの』(注1)の「序章」1-3ページ、「健康への影響」3241ページ、「事故23年後の健康と環境への影響」318-326ページを主に参照。)

チェルノブイリ原発事故の後にも、広島とほぼ同じことが起きた。旧ソ連政府は国内の医師に対し疾病と放射線による被害を関連づけることを禁じ、全てのデータを3年間開示禁止にした。放射能による被害で治療を受けた患者のカルテすら開示されなかった。また後に述べるように、IAEAWHOからの圧力もあった。

本書の著者の一人であるネステレンコ博士は、旧ソ連の可動式原子力発電所「パミール」を開発したエンジニアで、事故当時はベラルーシ原子力センターの代表を務めていた。しかし同博士はチェルノブイリ原発事故の後、放射能の危険から人々を守るために自らの人生を捧げる決心をする。

チェルノブイリ事故の後に大量の放射線に汚染され健康被害に苦しむ子どもたちの現状を調査していた同博士は、調査を理由に旧ロシア政府に逮捕・投獄されたこともある。博士は残念ながら本が出版された直前の2008年に死去している。

このように、独立した専門家たちが現状を調査し結果を出版すること自体が、非常に多くの困難を伴う道のりだった。本書に記されているのは、こうした圧力に負けなかった技術者たちが残した記録でもある。

本書が書かれたきっかけについて著者は、チェルノブイリ原発事故の被害に関するIAEAWHOによる調査が惨事の結果を十分に反映していないとの問題意識から、独立した調査を実施するに至ったと述べている。

IAEAWHOによる調査の結果と今回発表された調査の結果は大きく食い違っている。IAEAWHOがチェルノブイリ事故での死者と放射能による癌患者の総数を「死亡者について直接の死因を特定することは難しい」との注釈付きで9000人、死亡者については4000人と見積もったのに対し、ヤブロコフ博士らの調査では事故が原因となって発生した死亡者数を985千人と指摘している。

著者は更に、IAEAWHOによる調査にかかわる専門家の中には、実際の放射能汚染による健康被害よりも、汚染地域における貧困や住民が持つ被害者意識の方が深刻な影響を与えた、と考え、チェルノブイリ事故の影響は一般に思われている程には深刻ではない、と結論づける者がいることを指摘している。著者はまた、こうした専門家の中には原子力産業との関係を持つ者が含まれている、とも指摘している(注2)。

IAEAWHOによる調査と本調査で、なぜこんなに数字が違うのか?

著者はIAEAWHOによる調査について以下の問題点を指摘している。

1)英語以外の文献をほとんど参照していない。多くの現場の関係者による収集データはスラブ語(ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語)で作成されていたが、IAEAWHOは主に英語による350文献しか参照しなかった。本書ではチェルノブイリ周辺で収集されたスラブ語によるデータを含む約5000文献を参照している。

2IAEAWHOによる調査は、チェルノブイリ原発事故による放射性物質の57%が排出された東部ロシア、ベラルーシ、ウクライナ以外の地域を調査対象としていない。特に、イラン、中国、トルコ、アラブ首長国連邦、北アフリカ、北米などが放射能による汚染にも関わらず調査対象から除かれている。

3)チェルノブイリ原発事故による放射性降下物によって2%しか放射線濃度が上昇しなかった、とうい過少評価を行っている。

4)事故による被曝量と疾病・死亡の因果関係を厳密に求め過ぎている。チェルノブイリ周辺地域(ベラルーシ、ウクライナ、ロシア)では、何千もの科学者、医師、その他の専門家たちが、何百万人もの住民が放射性降下物による汚染で苦しめられるのを直接目にしてきた。「調査の枠組みに該当しない」という理由でこれらのデータを無視するべきではない。

その他、事故発生後の数日間、放射性物質の排出量その他についてのデータが全く計測されなかったために、正確な状況の把握が困難である、という点が指摘されています。

(注1)ヤブロコフ、ネステレンコ、ネステレンコ著、ニューヨーク科学アカデミー出版。Alexey V. Yablokov, Vassily B. Nesterenko, Alexey V. Nesterenko, 2009, Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment.

http://www.infoark.org/InfoArk/Energy/Nuclear/Chernobyl,%20Consequences%20of%20the%20Catastrophe%20for%20People%20and%20the%20Environment%20-%20Yablokov_2009.pdf#page=310 

今回は「調査」の在り方についてのみ触れますが、同書にはチェルノブイリ原発事故によって起きた健康被害と環境への影響が詳細なデータとともに示されており、一読の価値があります。英語ですが、ゆっくり辞書を片手に関心のある章を読まれることをお勧めします。

英語はちょっと。。と言う方には、この本の概要を紹介している下記の動画がおすすめです。

カール・グロスマンのテレビ番組「環境クローズ・アップ」による特集『チェルノブイリ原発事故、百万人の犠牲者』(日本語の字幕付きです)

http://www.universalsubtitles.org/en/videos/zzyKyq4iiV3r/ 

インターネットにアクセスできない方用に、文字でも読めます。

http://www.asyura2.com/11/genpatu9/msg/753.html 

本についての紹介

http://blog.awakenature.org/?eid=238 

(注2)よく注意してみると、日本国内でも同じ論理が使われていることに気づく。勝間和代氏が中部電力によるCMや電気事業連合会によるラジオ番組への自らの出演について出した「お詫び」の中でも、事実に基づかない「住民の悲観的心理」への配慮が足りず申し訳無かった、という論理で説明がなされている。

http://real-japan.org/2011/04/15/421/ 

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コメント

フランスねこ様

“Various Topics”というブログを書いていますが、フランスねこさんのブログを本日5月1日に紹介させていただきました。
事後報告になり、失礼しました。

私はブログで海外からの記事等も紹介して、「日本国内から発信されるものだけでなく、海外からの情報にも目を通すことが必要」ということも訴えているのですが、インターネットがこれだけ普及している現在でも、語学が苦手な日本人にはハンデがあることを常々感じています。
(そもそも、「外に対しての関心がないから、語学が苦手」ということもあるんでしょうが。)

それでも英語のニュースに関しては翻訳されたものも多いし、原文でも読める人がいます。が、それ以外となるとなかなか紹介されません(フランス語となると、ル・モンド・ディプロマティーク日本語電子版くらいしか思いつきません。)。

今後とも、フランスからの記事の紹介、楽しみにしています。

Yukari


Yukariさん

遊びに来て下さってありがとうございます。
Blogも拝見しました。充実していますね。

実は「チェルノブイリ大惨事」の報告書は英文で作成されています。
重要な文献(恐らく最も充実した調査報告書の一つではないでしょうか)ですので、英語の文献ですが御紹介させて頂きました。ですので、是非PDFでダウンロードしてご興味のある章に目を通してみてください。これから長く続くであろう汚染の状況を想像する手掛かりが見つかるのでは、と思います。

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