無料ブログはココログ

WHO

2014年10月26日 (日)

政治と金に揺れるWHO:エボラ熱はなぜ暴走したのか/BBC(10月22日)

福島原発事故が起きた2011年、IAEAと日本政府への配慮から重度汚染地域における被ばくや汚染食品の危険性を早期に否定したWHOは、西アフリカで発生したエボラ熱への対応でも、現地政府が主張する「風評被害」への政治的配慮を優先し、アフリカから欧州・米国をまたぐ前代未聞の感染被害を招きました。今回は原発事故についての記事ではありませんが、福島原発事故への対応との類似点を検証する観点からWHOという国際機関が持つ構造的問題をBBCの記事を通じて御紹介します。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

エボラ熱による感染者は現在、1万人以上、死者は約5千人。1970年代以降に起きた過去の総被害者数を上回りとどまるところを知らない。アフリカから欧州・米国をまたぐ前代未聞の大感染はなぜ起きているのか。

NGO「国境無き医師団」は今年3月、西アフリカ地域におけるこの死に至る病の急激な広がりを把握し、WHOに緊急対策を求めた。しかしWHOは「特定地域に散発的に発生している限定的な感染」と公式に発表、実質的な対策を行わなかった。「国境無き医師団」はその後ジュネーブのWHO本部に出向いて状況の緊急性を繰り返し訴えたが結果は同じだった。

「現地政府はエボラ熱の被害を実際より小さく見せようとしていました。WHOもこれらの政府への政治的配慮から被害を小さく見せようとしたのです。」

WHOが緊急事態宣言を出したのは約5ヶ月後の8月だった。それも、6月に世界300以上の感染症対策専門組織が作る技術委員会の専門家らから強い抗議を受けた末のことだった。WHOがより素早い対応を取っていれば、今の事態は防げたと見られている。

実はWHOは「国境無き医師団」からの警告を受けた後、西アフリカの現地に専門家を派遣、現地報告と対策の提言を受けていた。提言の内容は、エボラ熱にかかったと見られる患者への治療として食塩とブドウ糖を混ぜた経口補水液を率先して与えること、貧しい家庭に配慮し消毒薬だけではなくバケツを合わせて配布すること、エボラ熱の発熱を急激に悪化させる作用を持つ特定の解熱剤を使用しないよう周知することなど、すぐに実行に移せる簡易な内容でありながら詳細に渡っていた。しかし提言が実行されることは無かった。WHOの幹部は政治的に任命されている。WHOアフリカ地域事務所は「風評」を恐れ感染被害の現状を小さく見せようとする西アフリカ諸国政府への配慮と技術力の欠如から動くことができなかった。そしてWHO本部はそんなアフリカ事務所を動かすことができなかった。

もう一つ大きな問題がある。エボラ熱対策を所管するWHOの広域流行性感染症対策局は最近250億円規模の予算カットに遭い、職員の流出を招いていた。関係者の証言によれば、とてもエボラ熱への対策を十分に行える体制では無い。近年、各国政府によるWHOへの拠出金は低下の一途にあり、ビルゲイツ財団などの大企業主からの寄付に頼らざるを得ない状況が生じている(注:ビル・ゲイツ氏は中国での原発建設にも投資を行っている)。そして利益を産むワクチンや新薬の開発プロジェクトに比べ、貧しい国々の人々のみが苦しむ疾病への対策費もまた削減の対象になっている。WHOは再び世界を「全ての人における健康への権利の達成」とは別の方向に導いた。「国境無き医師団」の専門家らによれば、エボラ出血熱の沈静化は早くとも2015年末、場合によっては2016年の初頭まで見込めないと見られている。

(抜粋、一部編集及び説明を追記)

●元の記事:「エボラ出血熱はなぜ暴走したのか」/BBC(10月22日)
BBC Documentary « Ebola : What went Wrong », BBC, 2014.10.22
http://www.bbc.co.uk/programmes/p028t0q9


【訂正と追記のお知らせ】 10月27日、翻訳の一部に誤りがありましたので以下の訂正を行いました。大変申し訳ありませんでした。また、より分かりやすい記載となるよう、元の記事より一部の情報を追加しました。御確認ください。

「毎年6月に開かれるWHO総会で世界各国の専門家から強い抗議」→「6月に世界300以上の感染症対策専門組織が作る技術委員会の専門家らから強い抗議」

「提言の内容は、貧しい家庭に配慮した薬剤と必要器具の迅速な配布やエボラ熱に類似するマラリア等の症状を区別するための薬剤投与の際の留意事項など、詳細に渡っていた。」→「提言の内容は、エボラ熱にかかったと見られる患者への治療として食塩とブドウ糖を混ぜた経口補水液を率先して与えること、貧しい家庭に配慮し消毒薬だけではなくバケツを合わせて配布すること、エボラ熱の発熱を急激に悪化させる作用を持つ特定の解熱剤を使用しないよう周知することなど、すぐに実行に移せる簡易な内容でありながら詳細に渡っていた。」

「200億円規模の予算カット」→「250億円規模の予算カット」
「感染症対策局」→「広域流行性感染症対策局」

2013年3月 3日 (日)

「WHO報告書は福島事故の被曝被害を過小評価」環境団体、WHO報告書を「原子力産業を守るための政治声明」と非難/ルモンド紙(3月2日)

【御詫びと訂正】いつも御愛読頂きありがとうございます。記事の中に誤訳がありましたので、以下のとおり訂正致します。大変申し訳ありませんでした(「シーベルト」を「ミリシーベルト」に訂正致しました)。(3月4日)

 <誤>ドイツ人専門家オダ・ベッカー氏が「福島原発から半径20キロ以内の地域では、住民一人当たりの被曝量は数百シーベルトにのぼる」と推定

 <正>ドイツ人専門家オダ・ベッカー氏が「福島原発から半径20キロ以内の地域では、住民一人当たりの被曝量は数百ミリシーベルトにのぼる」と推定

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

世界保健機構(WHO)は2月28日、福島原発事故がもたらす健康被害に関する報告書を初めて発表した。WHOはこの報告書の中で、放射能による健康被害は福島から遠い地域には及ばないとしつつも、福島原発の近隣住民及び事故処理にあたる原発作業員の癌罹患率が明らかに上昇する事実を認めた。

報告書によれば、事故を起こした原発近隣の重度汚染地域に住む乳幼児が一生涯のうちに癌にかかる危険性は悪性腫瘍全般に関し4%増加、女性における乳がんで6%、男性における白血病で7%増加する。また、女性が甲状腺癌にかかる危険性については70%もの増加を指摘した。原発作業員については「今のところ急性被曝による影響は出ていない」としつつも、最も若い世代で20%もの癌発生率の増加を指摘した。

環境市民団体グリーンピースはこれに対し、報告書の作成にかかわったドイツ人専門家オダ・ベッカー氏が「福島原発から半径20キロ以内の地域では、住民一人当たりの被曝量は数百ミリシーベルトにのぼる」と推定していることに言及、

「WHO報告書は福島原発から半径20キロ以内にいた人たちが素早く逃げることができなかったために事故直後に浴びた放射能による被害を過小評価している」
「同報告書は原子力産業を守るための政治声明に過ぎず、健康問題についての科学的分析ではない」

と指摘した。東京電力は福島原発で事故処理にあたった2万人の原発作業員に関する被曝データを今も政府に提出していない。

(抜粋、一部編集)

● 元の記事:「WHO、福島事故による癌の増加を発表 福島原発周辺での甲状腺癌への罹患率は70%増」/ルモンド紙(3月2日)
(Paul Benkimoun, « Selon l’OMS, l’accident de Fukushima va entraîner davantage de cancers », Le Monde, 2013.03.02)

2011年6月11日 (土)

「フランスが語る『原子力の真実』」(前編)「フクシマ」後に再燃する「国策」原子力への恐怖」ル・ヌーベル・オプセルヴァテール(6月2日)

雑誌「ル・ヌーベル・オブゼルヴァター」は6月1日~8日号で、現EU議会(EUの国会に相等)の環境委員会・副委員長を務めるコリーン・ルパージュの新刊『原子力の真実』を紹介する特集記事を掲載しました。

ルパージュは環境分野を専門とする弁護士で、現在は環境保護を中心に活動するEU議員。1995年から1997年にはフランス・シラク政権の元で環境大臣を務めた。その間、1996年に国家原子力安全委員会から出されたCreys-Malvilleのスーパーフェニックス原子炉(当時は技術面その他の問題で停止中)を再稼働させる要求を却下。その後、同原子炉は廃炉の決定がなされている。

このブログでは、この記事でとりあげられているルパージュの論点を2回に分けて紹介します。

前編では福島での原発事故を踏まえた現時点での現状理解と、国策として守られて来たフランスの原子力セクターへの考察を取り上げます。

後編では、原子力発電による約5兆円もの負債を抱え、経営が危ぶまれるフランス電力公社(EDF)、今後膨大な核廃棄物の処理費用を負担することが見込まれる中、脱原発の流れの中で原子力発電所の建設にかかる発注を失いつつあるアレバ社、12兆円以上の廃炉費用が必要となることが見込まれているフランス原子力セクター、の財政破綻状況について読んで行きます。(以下は要約です。)

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

1.原子力への恐怖、再び

福島で起きた悲惨な原発事故は、わが国フランスの立場を全面的に変えてしまった。なぜならこの悲惨な事故は、テクノロジーの発展した民主主義の国、リスクをとらず安全を重んじる文化が深く根付いた国、日本で起きた事故だからだ。

「フクシマ」がフランスにもたらしたのは、原子力への恐怖である。日本政府は福島原子力発電所から20キロ・30キロ圏に住む13万人の住民に対し、圏外への退去もしくは自宅退去を勧告した。30キロメートル?フランスにあるブジェイ原子力発電所とリヨン市(注:フランス第二の都市)の距離は、5キロに満たない。

現実には、福島原発事故により放出された放射性セシウムは40キロを超える地域にまで汚染をもたらした。チェルノブイリ原発事故の際にベラルーシでセシウム137による汚染の被害を受けた子どもたちは皆、深刻な病に侵された。このことを鑑みると、日本政府は退避の対象地域を更に広げなければならないだろう。

しかしどこまで退避の範囲を広げれば良いのか?
そしてどう対処すればよいのか?

海も陸同様に汚染された。福島周辺で生産された農産物は通常の30から40倍もの放射能に汚染されているにもかかわらず、市場に並び売られている。食品に関する放射能汚染の許容量は、飲料水についての放射能汚染の許容量と同じく、福島原発事故の直後に、日本政府によって、すばやく見直しがなされたからだ。


2.「傲慢」という掟

2010年11月、東京電力は新潟工科大学に対し「わが国の原子力発電所における津波の影響評価に関する報告書」を発表、日本の原子力発電所は津波に対して完全な対策がなされていると報告した。この報告書では福島県における津波の高さが5.7メートルまでしか想定されておらず、これに従って福島原発への防御壁が設けられた。2006年、地震学者の石橋克彦は「日本の原子力発電所は地震の影響に対し脆弱すぎる」と日本政府および原子力分野の専門家に対して主張したが、政府や「専門家」に対して異論を述べる異端者として、その声はかき消された。

日本の原子力セクターでは、傲慢さが最後まで掟として貫かれた。これは、非常時の安全対策用発電機に問題があったにもかかわらず、2011年2月に福島第一原発第一号機の稼働を更に10年延長することを承認していた原子力安全・保安委員会の決定にも顕著に表れている。その後に何が起きたか、については私たち皆が知っていることだ。しかし、この悲劇を日本人や単なる一企業による失敗と結論づけるのは短絡的すぎる。これは原子力への国際的な制御、管理、規範に関するシステム全体に欠陥があった結果、起きた事故なのだ。


2.IAEAは我々を守ってくれるのか?

実は、国際原子力機関(IAEA)の唯一の本当の目的は、原子力の開発推進である。この目的は、他の国連機関、特に世界保健機構(WHO)が、IAEAの承認なしには原子力による健康被害に関心を持ち、原子力が原因で起きる健康被害についての情報を自由に公表することができない、という重大な問題を引き起こしている(ところで、「国連環境プログラム」(注:環境問題に関する国連専門機関UNEP)は原子力の話をすることすらできない)。

これは、1959年5月28日にIAEAとWHOの間で締結された、想像を絶する内容の協定(WHA12-40)によっている。この協定は情報の自由を制限していることから多くのNGOから批判を浴びており、複数のNGOが「WHOをIAEAから解放するよう」請願書を提出している。

福島での事故で私たちが目撃したのは、WHOが原子力発電による大惨事に際してもこの協定によってその影響力を弱体化され、本来の責務を果たすことができないという事実である。WHOの存在理由は、少なくとも理論上は、一般の人々の健康について調査を行うことにあるにもかかわらず、である。

この協定の内容は、知っておく価値がある。WHA12-40協定の第3条にはこう書かれている。

「WHOとIAEAは互いが所有する特定の極秘文書について、相手機関がこれらを外部公開しないように措置を取ることを要求できる。」

沈黙を守らせるための方策である。しかし明らかにこれでも足りないらしく、第7条には更にこう書かれている。

続きを読む "「フランスが語る『原子力の真実』」(前編)「フクシマ」後に再燃する「国策」原子力への恐怖」ル・ヌーベル・オプセルヴァテール(6月2日)" »

2011年5月18日 (水)

「WHO総会で日本代表『福島原発事故で癌や白血病は発生しない。死者は1人も出ていないし治療を必要としている人もいない。』」AFP/Romandie.com(5月17日)

スイスのジュネーブで開かれている世界保健機構(WHO)の第64回総会で、放射線医学総合研究所(放医研)の明石真言理事は日本を代表して発言、福島原発事故による健康被害は、チェルノブイリ原発事故の際に起きた被害より小さい、と述べて世界に波紋を広げている。

他方、WHOは1959年に国際原子力機関(IAEA)との間で結んだ協定により、IAEAの合意無しには原発事故の健康被害について自由に発言することができない立場にある。このため、チェルノブイリ原発事故の死者数・傷病者数を実際より少なく見積もったり、チェルノブイリ、広島、長崎で起きた被曝による健康被害の現状調査に関する報告書の出版をIAEAからの介入により見送らざるを得なかった、との指摘がチェルノブイリ事故に関わった各分野の専門家、および元WHO職員からもなされている。

「元WHO職員の証言『福島、チェルノブイリ・・WHOはIAEAが言う数字を繰り返すだけ』」(仏語記事)
http://www.rue89.com/2011/04/06/fukushima-tchernobyl-loms-repete-les-chiffres-de-laiea-198646 

(以下、AFP記事の要約。)

WHO総会の席で明石理事は、「福島原発事故における放射性物質セシウム134・137による汚染はチェルノブイリ事故の時に比べて少なく、健康への被害もチェルノブイリの場合より少ない。」と説明。「放射能により癌や白血病が発生する危険が増すことはないと考えている。」と述べた。


同じく同会合に出席した厚生労働省の大塚副大臣は、福島原発事故による死者はまだ1人も出ていない、と強調、日本政府が福島原発周辺に住んでいた8万5千人を退避させた成果だ、と述べた。明石理事もこれを受け、被曝により治療を必要としている人は現在のところはいない、と公言。しかし、大塚副大臣、明石理事ともに、現状を詳細に調査・監視する必要がある、と述べた。


3月11日に日本の東北地方を襲ったマグニチュード9の地震と津波は、チェルノブイリ原発事故以来の史上最悪の原発事故を日本にもたらした。又、この事故により、(1945年に)広島に投下された原爆の200倍以上の威力に相当する放射性物質が放出されるに至っている。しかし日本政府によれば、福島原発事故で大気中に放出された放射性物質は、チェルノブイリ原発事故の時の量の10分の1に過ぎないという。


http://www.romandie.com/news/n/_Fukushima_les_consequences_sur_la_sante_bien_moindres_que_Tchernobyl_170520111805.asp

(AFP/Romandie.com, « Fukushima : les conséquences sur la santé bien moindres que Tchernobyl », 2011.05.17)

2011年4月25日 (月)

「消される被曝者(2)『チェルノブイリ事故の死者4000人』の謎とIAEA・WHOの調査手法」ヤブロコフ他

(本編は「数字から消される被曝者たち(1)広島から学ぶ」の続きです。長いので2つに分けました。前書きにつきましては、まず(1)をご覧ください。)

http://franceneko.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/1-a0d9.html 

2.チェルノブイリから学ぶ

(以下、『チェルノブイリ―大惨事が環境と人々にもたらしたもの』(注1)の「序章」1-3ページ、「健康への影響」3241ページ、「事故23年後の健康と環境への影響」318-326ページを主に参照。)

チェルノブイリ原発事故の後にも、広島とほぼ同じことが起きた。旧ソ連政府は国内の医師に対し疾病と放射線による被害を関連づけることを禁じ、全てのデータを3年間開示禁止にした。放射能による被害で治療を受けた患者のカルテすら開示されなかった。また後に述べるように、IAEAWHOからの圧力もあった。

本書の著者の一人であるネステレンコ博士は、旧ソ連の可動式原子力発電所「パミール」を開発したエンジニアで、事故当時はベラルーシ原子力センターの代表を務めていた。しかし同博士はチェルノブイリ原発事故の後、放射能の危険から人々を守るために自らの人生を捧げる決心をする。

チェルノブイリ事故の後に大量の放射線に汚染され健康被害に苦しむ子どもたちの現状を調査していた同博士は、調査を理由に旧ロシア政府に逮捕・投獄されたこともある。博士は残念ながら本が出版された直前の2008年に死去している。

このように、独立した専門家たちが現状を調査し結果を出版すること自体が、非常に多くの困難を伴う道のりだった。本書に記されているのは、こうした圧力に負けなかった技術者たちが残した記録でもある。

本書が書かれたきっかけについて著者は、チェルノブイリ原発事故の被害に関するIAEAWHOによる調査が惨事の結果を十分に反映していないとの問題意識から、独立した調査を実施するに至ったと述べている。

IAEAWHOによる調査の結果と今回発表された調査の結果は大きく食い違っている。IAEAWHOがチェルノブイリ事故での死者と放射能による癌患者の総数を「死亡者について直接の死因を特定することは難しい」との注釈付きで9000人、死亡者については4000人と見積もったのに対し、ヤブロコフ博士らの調査では事故が原因となって発生した死亡者数を985千人と指摘している。

著者は更に、IAEAWHOによる調査にかかわる専門家の中には、実際の放射能汚染による健康被害よりも、汚染地域における貧困や住民が持つ被害者意識の方が深刻な影響を与えた、と考え、チェルノブイリ事故の影響は一般に思われている程には深刻ではない、と結論づける者がいることを指摘している。著者はまた、こうした専門家の中には原子力産業との関係を持つ者が含まれている、とも指摘している(注2)。

IAEAWHOによる調査と本調査で、なぜこんなに数字が違うのか?

著者はIAEAWHOによる調査について以下の問題点を指摘している。

1)英語以外の文献をほとんど参照していない。多くの現場の関係者による収集データはスラブ語(ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語)で作成されていたが、IAEAWHOは主に英語による350文献しか参照しなかった。本書ではチェルノブイリ周辺で収集されたスラブ語によるデータを含む約5000文献を参照している。

2IAEAWHOによる調査は、チェルノブイリ原発事故による放射性物質の57%が排出された東部ロシア、ベラルーシ、ウクライナ以外の地域を調査対象としていない。特に、イラン、中国、トルコ、アラブ首長国連邦、北アフリカ、北米などが放射能による汚染にも関わらず調査対象から除かれている。

3)チェルノブイリ原発事故による放射性降下物によって2%しか放射線濃度が上昇しなかった、とうい過少評価を行っている。

4)事故による被曝量と疾病・死亡の因果関係を厳密に求め過ぎている。チェルノブイリ周辺地域(ベラルーシ、ウクライナ、ロシア)では、何千もの科学者、医師、その他の専門家たちが、何百万人もの住民が放射性降下物による汚染で苦しめられるのを直接目にしてきた。「調査の枠組みに該当しない」という理由でこれらのデータを無視するべきではない。

その他、事故発生後の数日間、放射性物質の排出量その他についてのデータが全く計測されなかったために、正確な状況の把握が困難である、という点が指摘されています。

(注1)ヤブロコフ、ネステレンコ、ネステレンコ著、ニューヨーク科学アカデミー出版。Alexey V. Yablokov, Vassily B. Nesterenko, Alexey V. Nesterenko, 2009, Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment.

http://www.infoark.org/InfoArk/Energy/Nuclear/Chernobyl,%20Consequences%20of%20the%20Catastrophe%20for%20People%20and%20the%20Environment%20-%20Yablokov_2009.pdf#page=310 

今回は「調査」の在り方についてのみ触れますが、同書にはチェルノブイリ原発事故によって起きた健康被害と環境への影響が詳細なデータとともに示されており、一読の価値があります。英語ですが、ゆっくり辞書を片手に関心のある章を読まれることをお勧めします。

英語はちょっと。。と言う方には、この本の概要を紹介している下記の動画がおすすめです。

カール・グロスマンのテレビ番組「環境クローズ・アップ」による特集『チェルノブイリ原発事故、百万人の犠牲者』(日本語の字幕付きです)

http://www.universalsubtitles.org/en/videos/zzyKyq4iiV3r/ 

インターネットにアクセスできない方用に、文字でも読めます。

http://www.asyura2.com/11/genpatu9/msg/753.html 

本についての紹介

http://blog.awakenature.org/?eid=238 

(注2)よく注意してみると、日本国内でも同じ論理が使われていることに気づく。勝間和代氏が中部電力によるCMや電気事業連合会によるラジオ番組への自らの出演について出した「お詫び」の中でも、事実に基づかない「住民の悲観的心理」への配慮が足りず申し訳無かった、という論理で説明がなされている。

http://real-japan.org/2011/04/15/421/ 

2011年4月17日 (日)

「WHO、10~20年単位で福島原発事故による癌発生を調査」ル・モンド紙(4月15日)

世界保健機構(WHO)は日本政府と共同で、今後10年から20年に渡り、福島原発事故が原因で発生した癌を探知するための大規模な疫学調査を実施する。突発的に発症した甲状腺がん、白血病、その他の癌が対象となる。

WHOはしばしば、国際原子力機関(IAEA)との関係を通じ原子力業界に対し従属的な関係にあることが非難されてきている(注1)。これに対しWHOのマリア・ネイラ公衆衛生・環境局長は、「他の国連機関との関係でWHOの独立性が脅かされることはない」と述べる。

広島と長崎への原爆投下の際の生存者に対して実施された調査(注2)は、放射能から人体を保護するための国際的な規範作りの基礎となった。今回の日本での調査はこれに並ぶものと考えられる。調査は福島原発事故への緊急対策が一段落した段階で開始する予定となっており、10年・20年単位で一世代にわたって実施される予定。

ネイラ局長は福島原発の作業員について「危険にさらされている」と指摘。また福島原発周辺の退避ゾーン設定については「科学者の提言に沿ったもの」と肯定。一方で、「ゾーンを拡大すれば多くの人々を移住させなければならず、予算上の問題と(移住させられる人々への)心理的なストレスを生み、社会的な影響が引き起こされるため」、退避ゾーンの拡大は難しく、ゾーン拡大の利点と難点を秤にかけ検討する必要があると述べた。

(一部要約)

注1.    WHO1956年にIAEAと締結した協定により、WHOは原子力分野に関わる健康問題についてIAEAからの事前承諾無しに関わることを禁じられている。チェルノブイリ原発事故の後にWHOIAEAが共同で実施した健康被害調査は、放射能による健康被害および死者数を過少評価しているとして、一部で批判されている。

      http://franceneko.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/whoiaea319-5f9b.html

注2.    日米が共同で爆心地から2キロメートル以内の地域でのみ実施。調査の結果は放射線の被曝限度量の基準等を定める際に広く利用されている(詳しくは右サイト参照)。 http://www.nuketext.org/kenkoueikyou.html#hiroshima

Paul Benkimoun, « L’OMS va lancer une étude épidémiologique au Japon », Le Monde, 2011.04.15

2011年3月25日 (金)

WHO、日本の食品への放射能汚染についての発言ひるがえす(3月21日)

Le Mondeは3月23日、WHOが日本における原発事故で食品への放射能汚染が出ていることについて、3月21日には状況が「深刻」との発言を行っていたにもかかわらず、数時間後には「短期間には健康被害が出ないと思われる」と意見を翻していたことがわかった(Rémi Barroux, Le Monde, 2011.3.23)。